挟まれ事故・巻き込まれ事故

 

労働の現場で、従業員が作業中に機械や器具に挟まれてしまった・巻き込まれてしまったという労災事故が後を絶ちません。

 

 

労働者が人間よりも遥かに強い力、大きな質量を伴って動くこれらの機械や器具に挟まれた・巻き込まれたとなれば、それによって労働者が負う怪我もまた大きくなってしまいます。

労働者の手指や足であれば切断を余儀なくされることも多いですし、頭部や胸部であれば、お亡くなりになるケースもあります。

 

 

こういった勤務中の労働現場での労災事故は、業務の性質上、製造・建設・運送など、わが国の重要なインフラを担う業界で特に発生しやすい傾向にあります。もちろん、事故の予防や労働者教育など安全への対策は各所でなされているものの、全ての企業、全ての現場で万全の対策がなされているわけでありませんし、完全に防止することが困難な事故も存在します。

 

 

このような中で、残念ながら怪我を負ってしまった労働者の方への補償や賠償については、当然、全ての労災事故について適正になされなければいけません。

 

会社、元請けに対する損害賠償が可能なケースも

前述の通り、「挟まれ事故・巻き込まれ事故」は重症化しやすい事故ですから、相応の補償(数百万円から数千万円)がなされることが少なくありません。

 

また、労働現場の管理責任について「安全配慮義務違反(社員が安全で健康に働くことが出来るように配慮する義務)」や「不法行為責任(事故の原因が企業の活動そのものを原因とするような場合や、労働現場の建物・設備に危険があった場合などに認められる責任)」などを根拠として会社や雇用主、元請けに対して多額の損害賠償請求が認められるケースも多いのです。

 

このような事故ではロール機、撹拌機(ミキサー)、プレス機の金型、コンテナ、スクリューなど様々な機械・器具が事故の起因物となりますが、これに対して、防護措置・安全措置の欠陥・不履行や、安全のための教育・周知徹底の不備を根拠に責任を追及することが可能です。

 

しかしながら、こういった事情を知らずに、労災保険からの給付のみを受け取って「一件落着」としてしまっている方が多いのもまた事実です。

 

 

挟まれ事故・巻き込まれ事故の例

※以下は裁判例から抜粋

ケース.プレス機の作業中に・・

東京地裁 平成22年 5月25日 損害賠償等請求事件

※雇用上の地位確認請求については労働者が「明確な復職の態度を示さなかった」ことなどを理由に否定された事案。

 

前提となる事実

プレス工場で稼動中両手の指を切断する労災事故 

49歳 年収260万7195円、後遺障害認定・併合6級

事故後に4年以上の休職期間を経たのちに解雇された。

 

事故の概要

 各種板金加工等を目的とする株式会社のプレス工場で勤務していた労働者Xは,カーナビやカーオーディオの部品等を製作する際にパワープレス機の操作中に,両手の親指と人さし指をいずれも切断するという労働災害事故に遭遇した

 

安全配慮義務違反の内容

 パワープレス機は,加圧式スライドが数十トンにも及ぶ強い力で下方に下がり,素材を折り曲げるなどして部品等を製作する機械であるから,指の切断等重大な事故の発生の危険が予見される。

 そのような結果を回避するために,作業者の手が危険限界内にあるときにはスライドが下死点まで下がらないようにするなどの対策がとられるべきである

 プレス機の操作方法のうち足踏み式は,両手操作式に比べて,作業の速度や能率が優れているが,事故防止効果は低いので,製造部長のBは,ベテラン社員に対しても,足踏み式で作業をするよう指示することはなかった。とくに,女性社員に対しては,足踏み式を避けるよう厳しく注意をしていた。

 ただし,この注意は,徹底されていなかった。

 また,被告は,プレス機がしょっちゅう止まってしまうことを嫌って,光線式安全装置を作動させていなかった。しかも,切り替えスイッチがロックされておらず,ロック用の鍵が差し込まれたままの状態であった。

 

損害金額

合計3465万9634円

 逸失利益 2041万9634円 

 ※基礎収入×労働能力喪失率67%×67歳まで18年間のライプニッツ係数で計算

 入通院慰謝料 244万円

 後遺障害慰謝料 1180万円

 

過失相殺及び損害認定額

 みずから足踏み式に切り替えて作業を続け,本件事故に遭遇したとして、65%の過失相殺と認定した。

 その結果、損害額は、逸失利益が714万6871円、慰謝料が498万4000円と認定された。

 ※過失相殺後の認定金額から公的労災給付金額との損益計算が裁判例の判決認容額です。

 

 

参考情報

 機械巻き込み型の事故については全自動式丸鋸切断機の事例について、製造物責任を認めた裁判例もある(平成29年1月24日、東京地方裁判所)。

 

 

会社・元請けに対して過失を追求するために

先述の「使用者責任」以外にも、労働災害においては様々な角度から「事故を起こさないために十分に被害者の安全に配慮したのか」という検証が行われます。

 

しかしながら、会社や保険会社とのやり取りはとても煩雑で被害者や家族の負担になるものであり、初めて労働災害に遭われた方がそれを行うのは困難をきわめますし、事故態様に関する証拠資料の収集も容易ではありません。また、時間の経過とともに証拠資料が失われてしまう恐れもあります。

 

損害の計算も容易ではありません。どういった損害を請求できるのか、慰謝料がいくらなのか、仕事が出来なくなったことに対する補償の計算はどのようにするのか、公的な労災補償給付等との差し引き計算方法や、将来の介護費を請求できるのか否か金額の算定など専門的知識が必要です。

 

ほとんどの方が労働災害に遭うことや損害賠償の請求を行うこと自体初めての経験ですから、ご自身ではよく分からないことが多く、どのように交渉を進めればよいか悩ましく、お忙しい中で非常にストレスに感じられることと思います。

 

また、会社側も「労働者(=あなた)」に過失があったのだから賠償額を減額するべきだ」というように、「過失相殺(割合)」などの主張をしてくる場合が少なくありません。そのような時にも、弁護士はあなたの味方となり、適切な主張と証拠の収集を行います。

 

 

当事務所の弁護士は、労働災害の賠償についても過去の裁判例やガイドラインの研究を重ねており使用者側との複雑なやり取りも得意とするところですから、ご依頼いただくことでこれらを一挙に担い、スピーディーに進めることができます。挟まれ事故・巻き込まれ事故に遭われた方やご遺族の方は、是非一度ご相談ください。