通勤中の労働災害(追突された等)
1.通勤災害が認められる条件
前述したように、通勤災害の中には営業車やマイカー通勤時など交通事故が多くあります。
業務時間中の交通事故については広く労働災害として認められますし、自家用車での通勤中の事故においても、労働災害と認められる事例は多くあります。
では、通勤中の交通事故によるケガや死亡であれば、すべてが労災と認められるかといえば、そんなことはありません。
・通勤災害と認定されるには要件があります。
「通勤」とは、次のような移動を合理的な経路と方法で行なうこと、とされています。
(労働者災害補償保険法第7条2項)
住居と就業場所との往復
就業場所から他の就業場所への移動
単身赴任先住居と帰省先住居との移動
上記の3つの経路を逸脱、中断した場合、原則として逸脱または中断の間とその後の移動は通勤とは認められない可能性があります。
逸脱中に交通事故にあったとしても、労災認定は受けられない可能性がある、ということです。
しかし、日常生活上の必要な行為として通勤経路を逸脱、中断した場合は、この限りではありません。
たとえば、子供を託児所や保育園などに預けたり、食品や日用品を買うためにスーパーやコンビニに立ち寄り、短時間で買い物を終えて通勤経路に戻れば、合理的な経路として認められる可能性が多くあります。
ですから、こうした経路の途中で交通事故にあった場合は通勤災害と認められる可能性が高いわけです。
なお、次のようなケースは合理的な経路として認められるの可能性が高いので覚えておくと役に立つでしょう。
通勤経路上にある店舗でのタバコや飲料水、雑誌などの日用品の購入
通勤経路の近くにある公衆トイレの使用
駅構内やコンビニなどでの飲料水の立ち飲み
公園での短時間の休憩
病院等において診察や治療を受ける
通勤災害が起きた場合の手続き
通勤災害(交通事故)が起きた場合、被災労働者(被害者)は、何を、どうすればいいのでしょうか?
一般的に、通勤災害の交通事故は次のような順序で対応や手続きが進んでいきます。
(1)通勤災害(交通事故)が発生
(2)交通事故の状況や相手(加害者)の身元の確認
(3)交通事故の発生を警察へ通報(実況見分調書などの作成)
(4)加害者と被害者双方の保険会社へ通知
(5)ケガの治療(入院・通院)
(6)労災の認定、および労災保険による治療費や休業補償給付などの支払い
(7)症状固定の診断(治療完了
(8)後遺障害等級の確定と賠償損害額の提示(後遺症が残った場合)
(9)加害者側(さらには加害者の使用者側)の保険会社と示談交渉を開始
(10)示談が成立したら、慰謝料などの損害賠償金を受け取る
(11)示談が決裂した場合は裁判へ
(12)裁判による問題解決に向けて弁護士に依頼
交通事故が起きた場合、大きくは「事故後の処理」、「ケガの治療」、「後遺障害等級の申請と認定」、「示談交渉」、「示談が決裂した場合の裁判」というプロセスが発生します。
交通事故でケガを負った場合、被害者は治療のために労災(指定)病院等に入院・通院をして治療を受けることになります。
2.健康保険と労災保険と自賠責保険の関係とは?
通勤災害の交通事故が発生したら、会社が手続きを取り、労災の認定は労働基準監督署が行ないます。
会社が手続をしてくれない時は、自分で手続をすることになります。
労災認定がされた場合、「労災保険」が適用になります。
ところで、ここで注意が必要なのが被災労働者(被害者)は健康保険と労災保険のどちらを使えばいいのか、という問題です。
これについては、基本的に労災保険を健康保険に優先して申請する必要があります。労災保険には健康保険のような自己負担部分がないので、被害者としては労災保険のほうが有利だといえますので健康保険よりも労災申請を優先して検討して下さい。
労災保険を申請するには、会社のある地域の最寄りの労働基準監督署に相談して、労災申請書式の「第三者行為災害届」や「診断書」などを提出して手続きをする必要があります。
さて、ここでもうひとつ関わってくるものに「自賠責保険」があります。
自賠責保険とは、法律により自動車やバイクの運転者が必ず加入しなければいけないものです。
通勤災害の場合、被害者は労災保険と自賠責保険のどちらを使うかについて、自由に選ぶことができます。
労災保険を使った場合、相当な医療と認められる分の治療費の負担がなくなります。
一方、自賠責保険の場合、相手方の事情や事故の態様によって
- 交通事故の加害者が自賠責保険に加入していないため自賠責請求ができない
- 自身の過失割合がかなり大きいため自賠責請求の補償額が減額されてしまう。
- 加害者車両の所有者が運行供用者責任を認めないため自賠責請求ができない
などのリスクが発生するケースもあります。
3.労災保険と補償内容
通勤災害の交通事故が発生したら、主に会社が中心になって書類を準備し労災の手続きを取ります。労働災害の認定は労働基準監督署が行ないます。
労災が認定された場合には、「労働基準法」と「労働者災害補償保険法」の規定により、被災労働者(被害者)には補償制度が設けられているので各種給付金が支給されます。
・休業補償給付 ※通勤中の場合は、休業給付
ケガを負ったために労働できない場合は、休業の4日目から休業が続く間の補償が支給されます。
支給額は、給付基礎日額の60%です。(別途、休業特別支給金20%が支給される)
給付基礎日額とは、労働基準法の平均賃金に相当する額のことで、平均賃金は事故日、または疾病発生確定日の直近3ヵ月間の賃金を基礎とします。
・傷病補償給付
治療開始後1年6ヵ月を経過しても治らない場合、傷病等級に応じて給されるものです。
傷病補償給付には、傷病補償年金・傷病特別年金・傷病特別支給金があります。
・障害補償給付
症状固定後、認定された後遺障害等級(1~14級)に基づいて支給されます。
・介護補償給付
後遺障害等級が1級か2級に認定され、常時もしくは随時、介護が必要になった場合の補償です。
・遺族補償年金
労働者が死亡した場合、遺族に支給されるものです。
遺族補償年金、遺族特別年金、遺族補償一時金、遺族特別一時金などがあります。
・葬祭料
労働者が死亡した場合に支給される葬祭に関する費用です。
4.通勤災害の後遺障害等級と損害賠償請求について
治療をしても完治しないで症状が残存した場合には、後遺症ということになります。
後遺症が残った場合には、後遺障害等級認定を受けることになります。
後遺障害等級認定は、労災手続き上の後遺障害等級認定と、自賠責の後遺障害等級認定の2つがあります。
自賠責の後遺障害等級認定も労働災害の後遺障害等級認定を参照しておりますので、同じく1級~14級に区分されているのですが、2つの手続きは別々の手続きにより後遺障害等級を認定することになり、2つの認定が食い違うこともあります。
この後遺障害等級によって、労災給付や損害賠償額が違ってきますので、大切な手続きです。
そして、後遺障害が重大なため、労災保険による給付だけでは被災労働者(被害者)が被ったすべての損害を補填できない、という状況になる場合があります。
その際、被害者は民法の規定により加害者に対して直接に損害賠償請求をすることができます。
ですから、労災給付による補償を受け取った後に重要になってくるのが、ご自身の後遺障害等級の認定と、示談交渉による損害賠償額の決定になってきます。
加害者、もしくは加害者の使用者(会社)への損害賠償請求の方法は、基本的に通常の交通事故の場合と変わりません。
通常、加害者は自動車事故の損害保険に加入しておりますので、損害賠償金額(示談金額)は保険会社が提示してきます。
中でも金額が大きいものが慰謝料です。
たとえば、後遺症慰謝料は認定されたご自身の後遺障害等級(1~14級)に応じて、大体の相場金額が決まっています。
裁判(弁護士)基準における後遺障害症慰謝料金額一覧
後遺障害等級1級 2800万円
後遺障害等級2級 2370万円
後遺障害等級3級 1990万円
後遺障害等級4級 1670万円
後遺障害等級5級 1400万円
後遺障害等級6級 1180万円
後遺障害等級7級 1000万円
後遺障害等級8級 830万円
後遺障害等級9級 690万円
後遺障害等級10級 550万円
後遺障害等級11級 420万円
後遺障害等級12級 290万円
後遺障害等級13級 180万円
後遺障害等級14級 110万円
ところで、交通事故の慰謝料などの損害賠償金には「3つの支払い基準」があるのを、ご存知でしょうか?
交通事故の損が賠償については、当事務所の交通事故専門サイトで解説しておりますので、ご覧ください。
5.通勤災害の交通事故を弁護士に依頼するメリットとデメリットとは?
交通事故による通勤災害における損害賠償で、特に難しいとされていること……それは、被災労働者(被害者)自身が加害者側の保険会社と示談交渉をすることです。
「被害者なのだから、自分で交渉するのは当然で、加害者は適切な賠償金額を支払うべき」と思う方もいらっしゃると思います。
しかし、それでは被害者自身が賠償額の基準を知らずに交渉して時間がかかったり、損をしてしまう可能性が大きいのです。
そこで、被害者の強い味方となるのが弁護士です。
労災と交通事故に精通した弁護士に相談・依頼するメリットには次のことがあげられます。
(1)正しい後遺障害等級を知ることができる
交通事故の被害者が損害賠償金を受け取るには後遺障害等級の認定が必要ですが、必ずしも正しい等級が認定されるとは限らないのです。
たとえば、提出書類に不備があったり、主治医の判断や記載内容が間違っている場合があります。
そうした場合、後遺症や後遺障害等級の知識がほとんどないであろう被害者の方では、正しい等級を主張して認定を得ることは非常に難しいでしょう。
このような場合、医学的知識と交通事故に関する法的知識を持っている弁護士に相談・依頼すれば、ご自身の後遺障害等級が正しいのかどうか、治療記録等の資料を基に検討して貰えます。
仮に、後遺障害等級が間違っている場合は、弁護士が被害者の代わりに異議申立を行ない、正しい等級を得るためのサポートを行なってくれます。
(2)適切な損害賠償金額を受け取ることができる
前述したように、交通事故の示談交渉において、保険会社が提示する示談金は本来裁判で認められる金額よりも低額であるのが一般的でそのまま示談に応じると、被害者が受け取ることができる金額も低いことがほとんどです。
それは、保険会社も営利目的の会社法人であるため、できるだけ裁判で認められる金額よりも低額で和解をして支出となる示談金額を低くしたいからです。
このような場合、労災と交通事故に精通した弁護士であれば、示談金額が正しいかどうかの判断ができ、その後は適切な示談金額を主張することができます。
仮に、保険会社が正しい示談金額の支払いを拒否した場合、弁護士は裁判を提起し、裁判での決着に向けて全力を尽くします。
結果として、示談金の増額を勝ち取ることができ、被害者は適切な損害賠償金を手にすることができる可能性が生じるのです。
(3)シビアで煩わしい示談交渉から解放される
ここまで解説してきたように、交通事故による通勤災害ではさまざまな手続きや申請があります。
また、交渉の前提として、医学的、法的に詳細で正しい知識が必要ですし、保険のプロである保険会社の担当者とシビアな示談交渉を続けていかなければいけません。
交通事故による通勤災害によって負った精神的、肉体的な苦痛を抱えたまま交渉を続けていくのは、かなり大きな負担になってしまいますが、弁護士に示談交渉を依頼すれば難しい交渉から解放され、精神的不安も軽くなるでしょう。