墜落・転落事故
墜落・転落事故は業務中の事故の中でも最も多く、かつ、重症化しやすいケースです。
労働災害による死亡者数は年々減少傾向にあるものの、例年、死亡者数の40%前後を墜落・転落事故が占めているという現状があります。
例えば、
●エレベーター点検設置作業中の墜落事故
●ビル建築や道路工事中の足場からの転落事故
●屋根の塗装中の転落事故
●樹木の伐採中の転落事故
会社、元請けに対する損害賠償が可能なケースも
前述の通り、「墜落・転落事故」は、重篤な後遺障害を負ったり、お亡くなりになることが多いこの墜落・転落事故では、勤務先や元請会社に対して請求をすれば、公的な労災補償の外に、会社から別途相応の補償や損害倍書(数千万円を超えた場合もある)がなされることが少なくありません。
また、労働現場の管理責任について「安全配慮義務違反(社員が安全で健康に働くことが出来るように配慮する義務)」や「不法行為責任(事故の原因が企業の組織、活動そのものを原因とするような場合や、労働現場の建物・設備に危険があった場合などに認められる責任)」などを根拠として雇用先の会社や、元請会社に対して多額の損害賠償請求が認められるケースも多いのです。
しかしながら、このことを知らずに、労災保険からの給付のみを受け取って終えてしまっている方が多いのも事実です。
墜落・転落事故と損害賠償が特に多いのは「建設業」
墜落・転落事故の中でも、特に建設や製造の現場で足場や梁、母屋、屋根等での作業中に落下し、亡くなってしまうという事故が多く、後を絶たちません。全業種の中でも、建設業での死亡事故が33%と高い割合を占めています。
一例として、建設現場における事故の中でも最も多い「足場」からの墜落・転落による死亡事案の行動内訳(下図)を見てみると、既に組み上がった足場上での作業中または移動中が56.8%と最も多く、続いて足場の組立てまたは解体作業中の35.4%ですが、いずれのケースにおいても、会社、元請けに対する損害賠償の請求が認められた例が多くあります。
墜落・転落事故の例
※以下は裁判例から抜粋
ケース.道路工事の高所作業中に・・・
高松地裁平成20年 9月22日(控訴審 高松高裁平成21年 9月15日 会社側の控訴棄却)
前提となる事実
道路工事現場において、とび職人として高所作業に従事中、転落事故に遭い多発性骨折の傷害を負った。
労働者は17歳。後遺障害12級 平均賃金額1日当たり6590円90銭
事故の概要
自動車道中間高架橋の地上約8メートルの工事場所において、足場上で解体された枠組支保工等の材料の荷下ろし作業中、地上に転落し、左肘頭骨折(抜釘後)、左上腕・前腕・大腿骨転子部骨折、骨盤骨折の傷害を負った。
労働者Xは、事故当日、本件現場において、足場上で解体された枠組支保工等を荷下ろしする準備として、足場の南東側の既に手すりが撤去された付近にこれらを移動させる作業をしていた。
足場は、鉄骨を組んだ上に板が敷かれ、その上をビニールシートで覆った構造であったが、足場の端の方は鉄骨が飛び出した状態となっており、鉄骨の間の板のない部分にまでビニールシートの一部が広がっていたことから、原告は、足場上を歩行中、板がないことに気付かずに開口部の上のビニールシートを踏み抜き、そのまま8.24メートル下の地上に転落した。
安全配慮義務違反の内容
本件事故当日、定時の巡視を行っていた際、作業手順とは異なって本件現場の手すりが外されていること。
また、そのような状態であるのに、安全帯を使用しないまま高所作業に従事している作業員がいることに気付き、口頭で注意をしてはいるが、作業員らがすぐに親綱を張り安全帯を使用できるようにするのを確認しないままその場を離れている。
その現場の責任者や職長に対し個別に明確な指示をすることなく、だれに対する指示かもはっきりしないような状態で親綱の使用を呼びかけても、その効果は期待できないというべきである。
転落の危険のある付近での作業を全面的に中断させるべきであり、その場にいる作業員全員に個別に明確な指示が行き渡るようにすべきであったといえる。
損害金額 合計989万3330円
(1) 休業損害 146万5157円
入院した64日間は,全く就労ができなかった
通院日については70%の休業損害を認める
通院日以外の通院期間(467日)については30%の休業損害を認める
(2) 傷害慰謝料 160万円
入院64日,通院493日(実日数26日)
(3) 入院雑費 9万6000円
入院期間(64日)中,1日当たり1500円の雑費を支出
(4) 通院交通費 5万2000円
通院26日に実母の付添費用も含めて1回当たりの交通費2000円(往復)を支出
(5) 後遺症逸失利益 378万0173円
後遺障害別等級表第12級12号「局部に頑固な神経症状を残すもの」
労働能力喪失期間は,10年(対応するライプニッツ係数7.7217)
賃金センサス男性労働者・中卒・25歳から29歳の平均賃金額349万6800円
(6) 後遺症慰謝料 290万円
過失相殺及び損害認定額
使用可能であった安全帯を使用しなかったこと、原告が当時17歳であったにもかかわらず、18歳であると虚偽の申告をして稼働したことなどから1割の過失相殺がされて890万3997円が認定された。
会社・元請けに対して過失を追求するために
労働災害においては、様々な角度から「事故を起こさないために十分に被害者の安全に配慮したのか」という検証が行われます。
墜落・転落事故が発生したとなれば、例えば下記のような点で、会社・元請けの過失が追及されることになります。
・落下防止のための柵や帯など、十分な策は施されていたか
・被災者の健康状態を把握していたか
・作業工程には時間的な無理はなかったか
しかしながら、会社や保険会社とのやり取りはとても煩雑で被害者や家族の負担になるもの、初めて労働災害に遭われた方がそれを行うのは困難をきわめますし、事故態様に関する資料の収集も容易ではありません。また、時間の経過とともに証拠資料が失われてしまう恐れもあります。
ほとんどの方が労働災害に遭うことや損害賠償の請求を行うこと自体初めての経験ですから、ご自身ではよく分からないことが多く、どのように交渉を進めればよいか悩ましく、お忙しい中で非常にストレスに感じられることと思います。
また、会社側も「労働者(=あなた)の自損事故であり会社に責任はない」「労働者に大きな過失があった」というように、「安全配慮義務違反がない」と主張したり、仮に会社の責任を認めても、「労働者(=あなた)」に過失があったのだから賠償額を減額するべきだ」と「過失相殺(割合)」で大幅減額を主張してくる場合が少なくありません。そのような時にも、弁護士はあなたの味方となり、適切な主張を行います。
当事務所の弁護士は、労働災害の賠償についても過去の裁判例やガイドラインの研究を重ねており使用者側との複雑なやり取りも得意とするところですから、ご依頼いただくことでこれらを一挙に担い、スピーディーに進めることができます。
墜落・転落事故に遭われた方やご遺族の方は、是非一度ご相談ください。