石綿(アスベスト)による労災
石綿(アスベスト)とは
アスベスト(石綿)はその断熱性や保温性の高さから「奇跡の鉱物」と呼ばれ、軽量な断熱材として1960年代の高度経済成長期の建築において多く用いられました。
しかしながら、2005年にはアスベストを扱うニチアス、クボタの工場付近における住民の健康被害が報じられ(クボタショック)、国家に対する糾弾、そして被害者の救済へと一挙に動くこととなりました。
そこから各地でアスベスト被害者救済を目的として弁護団が結成され、アスベスト紡織工場で働いた元従業員やその家族、また工場周辺に居住していた住民の健康被害に関する、いわゆる「泉南アスベスト訴訟」、その後、アスベストを建材として用いた建設に従事した作業員の健康被害に関する、いわゆる「建設アスベスト訴訟」と、全国的な広がりを見せたのです。
石綿(アスベスト)の労災認定基準
アスベストの吸引が原因で疾病にかかったり、亡くなった場合、労働基準監督署長から労災の認定を受けることができれば、労災保険の給付を受けられることができます。
「石綿による疾病の認定基準について」(平成24年3月29日付基発0329第2号)という石綿の労災認定基準が定められています(https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/061013-4c.pdf)
この労災認定基準によれば、「石綿暴露作業に一定期間従事した結果、石綿による疾病を発症したこと」が重要となります。
石綿による疾病
①石綿肺
②肺がん
③中皮腫
④良性石綿胸水
⑤びまん性胸膜肥厚
次に、石綿曝露作業とは、次に掲げる作業をいいます。
石綿曝露作業
①石綿鉱山またはその附属施設において行う石綿を含有する鉱石または岩石の採掘、搬出または粉砕その他石綿の精製に関連する作業
②倉庫内などにおける石綿原料などの袋詰めまたは運搬作業
③石綿製品の製造工程における作業
④石綿の吹付け作業
⑤耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱もしくは保温のための被覆またはその補修作業
⑥石綿製品の切断などの加工作業
⑦石綿製品が被覆材または建材として用いられている建物、その附属施設などの補修または解体作業
⑧石綿製品が用いられている船舶または車両の補修または解体作業
⑨石綿を不純物として含有する鉱物(タルク(滑石)など)などの取り扱い作業
そして、認定基準を満たしているかを検討の上、認定が決定されます。
健康被害救済制度
石綿による健康被害の救済に関する法律
石綿による健康被害は、長い潜伏期間を経て発症し、原因の特定が難しいという特殊性があります。
この石綿による健康被害の特殊性にかんがみて、石綿による健康被害を受けた者及びそのご遺族で、労災補償の対象にならない者に対して、迅速な救済を図ることを目的とした「石綿による健康被害の救済に関する法律」が存在します。
「石綿による健康被害の救済に関する法律」による救済制度は、①労災補償による救済の対象とならない者を対象とした「救済給付」と、②労災補償を受けずに死亡した労働者の遺族を対象とした「特別遺族給付金」の2本柱となっています。
※特別遺族給付金
アスベストの吸引により平成28年3月26日までにお亡くなりになった労働者のご遺族ついて、労災保険の遺族補償給付を受ける権利が5年の時効によって消滅した場合、特別遺族給付金が支給されます。
特別遺族給付金の指定疾病は、石綿肺、肺がん、中皮腫、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚です。
特別遺族給付金の内容としては、特別遺族年金(原則として年額240万円)、特別遺族一時金(1200万円)があります。
遺族特別支給金の請求期限は、2022年3月27日までとなっていますので、早目に申請をするようにしてください。
会社に対する損害賠償請求
会社が石綿の危険性を認識しつつ、何らの対策をとらずに労働させたことによって疾病を発症したことについて、会社に対して、損害賠償請求を行う余地がある場合があります。
会社に対する損害賠償請求においては、会社が安全配慮義務(労働者の生命・健康を危険から保護するように配慮する義務)に違反したかが争点となることが多いです。
石綿労災の損害賠償請求における安全配慮義務の具体的な内容は次のとおりです。
①粉じん濃度を測定し、その結果に従い改善措置を講じる義務
②石綿粉じんの発生・飛散防止措置(局所排気装置や全体換気装置の設置、湿潤化措置)をとる義務
③適切な呼吸用保護具を適正に使用させる義務
④石綿粉じん対策について、定期的に安全教育や安全指導を行う義務
なお、厚生労働省のホームページに、対象となり得る事業場一覧が埼玉県を含め掲載されていますので、石綿に関する仕事をしたことがある方は、一度、チェックしてみてください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/sekimen/ichiran/081217-1.html
ご自身が給付の対象となるか分からないという場合も、労災に注力している当事務所へ、是非一度ご相談ください。